はじめに
登山アプリを使えば、現在地の把握、登山計画、ログの記録などが一括で管理でき、安全性も大きく向上します。
中でも「ヤマレコ」と「YAMAP(ヤマップ)」は、2大人気サービスとして多くの登山者に支持されています。
本記事では、無料ユーザーにとってのメリット・デメリットやおすすめの使い方を中心に、フェアな視点で両者を紹介していきます。
YAMAPとヤマレコの比較
観点 | YAMAP(VC型) | ヤマレコ(独立型) |
---|---|---|
代表者名 | 春山慶彦 | 的場一峰 |
従業員数 | 約100名 | 約5名 |
設立年度 | 2013年 | 2005年 |
アプリダウンロード数 | 約460万DL(公式発表) | 約80万DL(非公式・推定値) |
企業理念 | 「地球とつながるよろこび。」 | 明文化は少ないが 「安全で実用的な登山支援」への強い信念 |
開発スピード | 速い(新機能・提携が多い) | 遅め(地道な改善中心) |
方針の安定性 | ややブレやすい(資本影響あり) | 安定(少数運営で一貫性) |
無料ユーザーの扱い | 制限あり・有料移行を促す傾向 | 無料でも比較的実用的 |
安心感 | 規模の大きさ・安心感あり | 開発者の顔が見える信頼感 |
ビジネスモデルの違い
YAMAP
YAMAPは、資金調達を積極的に行いながら事業を拡大するスタートアップ型の企業です。ベンチャーキャピタルや外部出資者からの資金を活用し、アプリ本体だけでなく、物販・イベント・メディア運営など、登山に関連する幅広い分野へ事業を展開しています。収益化よりもまずユーザー数やブランド価値の拡大を優先する姿勢が強く、バッジ機能やコミュニティ、初心者向けのやさしいUIなど、登山を“楽しくする”仕組みに投資しています。
このモデルによるユーザーへの影響としては、洗練されたUIや多機能なサービスを無料で使える利点があります。SNS的な要素や見守り機能など、登山を共有・記録・安心して楽しむための仕掛けが充実しており、特に初心者やファミリー層からの支持が厚いです。
一方で、外部資本に依存するビジネス構造である以上、将来的に課金要素が強まったり、個人情報の委託や海外移転といったリスクも伴います。実際、これまでに複数の仕様変更や方針転換が見られており、ビジネスとしての成長の裏側に、サービスの安定性・継続性への懸念も一部で指摘されています。
ヤマレコ
ヤマレコは、資本金500万円・社員数5名という非常に小規模な体制で運営されている独立系の登山アプリです。登山者自身が創業し、地図機能や登山計画支援に徹底して特化することで、余計な拡張をせず「必要な人に必要な機能を届ける」ことを重視しています。広告や外部資本に頼らず、プレミアム会員などからの収益で地道に運営されているのが特徴です。
このようなビジネスモデルのもと、ユーザーは本質的な登山支援機能を低価格、あるいは無料で堅実に使い続けることができるメリットがあります。特に、手動で自由にルートを作成できたり、ルート外れ警告が無料で使えたりと、計画性や自由度を求める中・上級者に向いています。また、サービス方針がぶれにくく、長期的に安心して使えるという点も評価されています。
反面、開発リソースが限られているため、新機能の追加スピードは遅く、UIもやや不親切に感じられる場面があります。また、SNS的な機能やコンテンツ展開は控えめで、他ユーザーとの交流を求める人には物足りなく感じられるかもしれません。
主な機能比較(無料版)
機能 | YAMAP | ヤマレコ |
---|---|---|
地図ダウンロード | 月2回まで (有料で無制限) |
2枚まで同時保持 (削除すれば実質無制限) |
登山計画の作成 | モデルコースから選択 | 手動作成+自由度高/GPX読み込み可 |
ルート外れ警告 | ✕(有料のみ) | 無料で利用可能・音声通知あり |
Apple Watch連携 | 一部機能対応 | 対応(消費カロリーなど詳細表示) |
消費カロリー表示 | 歩行距離から算出 | 歩行距離+荷物重量から算出 |
SNS機能 | 活発(DOMOや写真投稿) | 弱め |
見守り機能 | あり(「こんにちは通信」) | あり(「いまここ」) |
検索機能 | 比較的精度高い | 記録中の文章やキャプションは対象外 |
YAMAPの強み
出典:2024年10月 登山アプリ利用者数調査 (App Ape調べ)
YAMAPの最大の強みは、登山アプリの中で約7割という圧倒的なユーザーシェアを持っていることです。この多さを活かして、以下の3つの点で他のアプリにはない魅力があります。
- 充実したSNSとコミュニティ
- みまもり機能withこんにちは通信
- 最新の情報量
充実したSNSとコミュニティ
写真や活動日記を投稿し、DOMO(いいね)やコメントで交流が可能です。バッジ機能やランキング要素もあり、ゲーム感覚で楽しめます。また、「犬を連れて行けるのか?」「雪はあるのか?」といった気軽な情報収集もやりやすい印象です。
みまもり機能withこんにちは通信
YAMAPの「みまもり機能」は、Bluetooth通信を活用することで、電波の届かない山中でも、他のYAMAPユーザーとすれ違った際に相互の位置情報が端末に記録されます。その後、自分か相手のどちらかが電波の届くエリアに入ると、その情報がサーバーに送信され、通知先(家族など)に現在位置が共有される仕組みです。通知先の登録は無料版でも1件登録可能です。
最新の情報収集
YAMAPは国内の登山アプリの中でユーザー数が圧倒的に多く、全体の約7割を占めていると言われています。そのため、日々投稿される「活動日記」や「写真」、「コメント」などの情報量が非常に豊富で、リアルタイムに近い形で登山道の状況や天候、危険箇所、花の開花状況などを知ることができます。
実際に、同じ山でも「○月○日時点の雪の量」や「通行止めの有無」「登山口までの道路状況」など、現地を訪れた人しか分からない”生の情報”が次々と共有されるため、最新かつ信頼性の高い情報収集が可能です。
特に人気の山や季節の変わり目には、1日に複数件の投稿があることも珍しくなく、YAMAPならではの情報ネットワークが登山計画の質を大きく高めてくれます。
また、山行記録の文章中の言葉や写真のキャプションの言葉を検索機能で見つけることができるため「桜」のような任意のKWで検索を賭けることが可能です。
YAMAPの弱み
YAMAPの弱みは「無料ユーザーの機能制限」と「地図作成の不自由さ」にあります。
無料ユーザーの機能制限
2024年9月17日から無料ユーザーの場合写真アップロード上限が50枚→10枚になったり、2025年4月28日より、無料ユーザーが月にダウンロードできる地図と保存できる地図の枚数が「1枚まで」に変更されたりと有料版への促しが頻繁です。
また、ヤマレコでは無料版でも使える「正規ルート以外のルート表示」と「アラート音」が使えない点が痛手に感じます。
- 写真アップロードMAX10枚
- 地図ダウンロードMAX2枚
- みんなの軌跡を見れない
- 地図外れた時のアラート無し
地図作成&保存の不自由さ
個人的に致命的なのが、地図作成&保存の不自由さです。具体的には下記の点が気になります。
- 無料版では、正規登山道以外のルート作成ができないこと
- PCでルート作成ができないこと(ヤマレコの場合、PCでタブ分けしながら複数記録を見ながらサクサク作成できる)
- ダウンロードの単位がルートではなくエリアであることルートごとのダウンロードができないため、複数エリアをまたがるときに、エリアごとにダウンロード&切り替えをしないといけない(容量かさばる上、ダウンロードを忘れるリスクアリ)
- 無料版では月にダウンロードできる地図と保存できる地図の枚数が1枚のみ(削除しても同様)
- GPXデータをアプリに読みこめず、外部との地図データのやりとりができない
YAMAPがおすすめな人
- 登山初心者・初級者(地図へのこだわりがない人)
- SNSや人とのつながりを重視したい
- 見守り機能など安心感を求める人
ヤマレコの強み
ヤマレコの強みは「登山地図作成&保存の自由さ」です。地図アプリとしての一丁目一番地である「地図」性能が段違いです。
- 「みんなの足跡」機能
- PCでの登山計画作成
- 実質月々のダウンロード上限無し
「みんなの足跡」機能
「みんなの足跡」機能では、正規ルート以外でも他のヤマレコユーザーが通過した歩行記録を表示することができます。これにより、バリエーションルート・積雪期登山・沢登り・藪漕ぎのルート設定ができます。また、通常の縦走であってもより柔軟性の高いルート選択が可能になります。
なお、YAMAPも2024年12月9日に「みんなの軌跡」機能を公表しましたが、下記2点によりヤマレコの「みんなの足跡」機能の方が優れています。
- 無料ユーザーでも使用可能なこと
- ジャンルごとにフィルタリングできること。
PCでの登山計画作成
ヤマレコの場合、PCでタブ分けしながら複数記録を見ながらサクサク作成できます。細かな地図計画をスマホでちまちま入力しなくてよいのは正直楽です(もちろんスマホでもできます)
実質月々のダウンロード上限無し
無料ユーザーの場合、同時保有できる地図は上限2枚ですが、削除することで実質上限なしにダウンロードできます。(YAMAPは削除しても上限1枚/月)
ヤマレコの弱み
ヤマレコの弱みは「SMS機能の充実度」と「やや無骨なUIUX」です。
SMS機能の充実度
- SNS機能はYAMAP比較で弱い(交流要素は乏しい)
- 検索機能の対象が狭い(記録本文やキャプションは検索されない)
やや無骨なUIUX
- UIはやや無骨で、直感的に操作しづらいという声も
- YAMAPは「DOMO」、ヤマレコは「拍手」というような表現の古さ
- 情報量が多く、慣れるまでに時間がかかる
ヤマレコがおすすめな人
- 登山計画をしっかり立てたい人
- バリエーションルートに挑戦したい
- 少しでも無料で使い倒したい人
- スマートウォッチを活用したい人
まとめ
両者は「どちらが上」というよりも、思想や設計思想がまったく異なるアプリです。
まずは両方使ってみて、自分の登山スタイルにしっくりくる方を見つけるのがおすすめです。
ちなみに、学生時代100人以上の登山者を見てきましたが、地図アプリを使う人はほぼ全員、モバイルバッテリーを持って行っていました。
私のオススメは、「Anker PowerCore Essential 20000」です。大容量で軽く、登山にピッタリのモバイルバッテリーです。