はじめに
「一生に一度は、日本一の頂(いただき)へ」
富士山。標高3,776m。
その圧倒的な存在感に憧れを抱きつつも、「本当に私ごときが登れるのだろうか?」「途中で高山病になったらどうしよう」「ネットの情報が古くて、今のルールがわからない」と、不安を感じていませんか?
その不安は正しいものです。富士山は観光地であると同時に、一歩間違えれば命に関わる過酷な自然環境でもあります。さらに、2024年〜2025年にかけて、富士登山には歴史的なルールの「大改定」が行われました。
古い情報のまま計画を立てると、最悪の場合「登山口まで行ったのに入山を拒否される」という事態になりかねません。
この記事は、富士登山初心者の方に向けた「完全攻略ガイド」です。
2026年の最新規制(入山予約・ゲート閉鎖)に完全対応し、ルート選びからトレーニング、山小屋予約、当日の歩き方まで、登頂への道筋をすべて網羅しました。
この記事を読み終える頃には、あなたの漠然とした不安は「具体的な計画」へと変わり、ワクワクする気持ちが湧いてくるはずです。さあ、雲の上の世界へ準備を始めましょう。
第1章:富士登山の現実と2026年シーズン基本情報

まずは敵を知り、己を知ることから。富士登山のリアルな数字と、絶対に守るべき期間について解説します。
1-1. 初心者の登頂率は意外と低い?
「誰でも登れる山」だと思っていませんか? 実は、富士登山の登頂率は一般的に50%〜60%程度と言われています。
主なリタイアの原因は以下の3つです。
- 高山病: 酸素不足による頭痛や吐き気。体力がある若者でも発症します。
- 低体温症: 真夏でも山頂は気温0度近く。雨風に吹かれれば体感温度は氷点下です。
- 準備不足: 靴擦れや体力不足。
しかし、裏を返せば「正しい準備と知識があれば、確率は劇的に上げられる」ということです。
1-2. 2026年の登山シーズン(開山期間)
富士山には登れる時期が決まっています。これ以外の期間は「冬山」扱いとなり、初心者は絶対に立ち入ってはいけません。
- 山梨県側(吉田ルート): 2026年7月1日頃 〜 9月10日頃
- 静岡県側(富士宮・須走・御殿場): 2026年7月10日頃 〜 9月10日頃
【注意】
9月中旬を過ぎると山小屋はすべて閉鎖され、トイレも使えなくなります。救護所もありません。この時期の強行登山は遭難リスクが極めて高いため、必ず開山期間内に計画してください。
第2章:初心者におすすめのルートは「吉田ルート」一択

富士山には4つの主要ルートがありますが、初心者が初挑戦するなら、迷わず山梨県側の「吉田ルート」を選んでください。その理由を比較検証します。
2-1. 4大ルート徹底比較表
| 項目 | 吉田ルート(山梨) | 富士宮ルート(静岡) | 須走ルート(静岡) | 御殿場ルート(静岡) |
| 初心者推奨度 | ★★★★★(最適) | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
| 標高差 | 約1,450m | 約1,350m | 約1,800m | 約2,300m |
| 歩行距離 | 往復約14km | 往復約8.5km | 往復約13km | 往復約19km |
| 特徴 |
山小屋・救護所最多。 |
最短距離だが急登。 |
緑が多い。 |
最も過酷で人が少ない。 |
2-2. なぜ「吉田ルート」が絶対におすすめなのか
初心者が吉田ルートを選ぶべき理由は、以下の「3つの安心」があるからです。
- 山小屋の数が圧倒的:
吉田ルートには登山道沿いに約18軒もの山小屋があります。これは「トイレが近い」「休憩場所が多い」「水や行動食を買える場所が多い」ことを意味し、精神的な安心感が段違いです。
- 救護所の存在:
七合目と八合目に医師や看護師が常駐する救護所が開設されます(期間限定)。万が一の高山病や怪我の際、この存在が心の支えになります。
- 登山道と下山道が分かれている:
富士宮ルートなどは登りと下りが同じ道です。狭い道ですれ違うのは危険ですし、ストレスになります。吉田ルートは下山専用道があるため、スムーズに歩けます。
2-3. 吉田ルートのデメリット
唯一にして最大の欠点は「混雑」です。
全体の登山者の6割以上がここを利用するため、ピーク時には渋滞が発生します。
しかし、2026年の新ルール(次章で解説)により、かつてのような「すし詰め状態」は緩和されつつあります。
第3章:【最重要】2026年の必須手続き(入山規制と予約)

ここが以前のガイドブックとは決定的に違う点です。オーバーツーリズム対策のため、「予約なしでふらっと行く」ことはできなくなりました。
3-1. 「弾丸登山(0泊2日)」の事実上の禁止
以前は、夜に五合目を出発し、徹夜で歩いてご来光を目指す「弾丸登山」が行われていましたが、事故が多発したため規制されました。
- ゲート閉鎖規制: 五合目の登山道入口にゲートが設置され、午後4時〜翌午前3時の間は閉鎖されます。
- 例外規定: この時間帯にゲートを通過できるのは、「事前に山小屋の宿泊予約をしている人」だけです。
つまり、「山小屋を予約しない限り、夕方からの夜間登山は物理的に不可能」になりました。
3-2. 入山にかかる費用と予約システム
2026年、吉田ルートから入山するには以下の手続きが必要です。
-
通行料(義務):2,000円
- ゲートの維持管理や安全対策に使われます。
-
保全協力金(任意):1,000円
- トイレの維持や環境保全に使われます。基本的には全員が支払うマナーとなっています。
-
予約方法:
- 「富士登山オフィシャルサイト(山梨県)」にて、**事前予約(決済)**が必要です。
- 1日の入山上限は4,000人です。
- 予約枠に空きがある場合のみ当日受付も可能ですが、土日やお盆は事前予約で埋まる可能性が高いため、必ずWeb予約を済ませておきましょう。
第4章:準備のロードマップ(3ヶ月前〜前日)

富士登山の成否は、準備で8割決まります。以下のタイムラインに沿って進めてください。
【3ヶ月前】基礎体力作り・トレーニング
運動不足の人がいきなり挑むのは無謀です。
- スクワット・ランジ: 太ももとふくらはぎを鍛えます。
- 有酸素運動: 1日30分以上のウォーキングやジョギングで心肺機能を高めます。
- 予行演習: 高尾山(東京)や六甲山(兵庫)など、近くの低山で登山靴を慣らしましょう。
【2ヶ月前】山小屋予約「争奪戦」に勝つ
多くの山小屋は4月〜5月に予約を開始します。
人気の山小屋(特に標高が高い本八合目付近)は、予約開始日に即満室になります。
おすすめの山小屋エリア:
- 七合目〜八合目(標高2,700m〜3,100m):
初心者はこのあたりで宿泊するのが高山病リスクを抑えられます。 - 本八合目(標高3,400m):
山頂まで近いため人気ですが、標高が高く、寝ている間に高山病になるリスクもあります。
予約方法はほとんどがWeb予約対応ですが、電話のみの宿もあります。
公式サイトをチェックし、カレンダーに予定を入れましょう。
【1ヶ月前】装備の手配(レンタルか購入か)
登山用品をすべて揃えると10万円近くかかります。
「今後も登山を続けるかわからない」という方は、レンタルサービスの利用が賢い選択です。
絶対に必要な「三種の神器」
- 登山靴: 足首を固定するミッドカット以上のもの。スニーカーはNGです(砂利が入るし、足首を捻ります)。
- レインウェア(雨具): コンビニのカッパはNG。ゴアテックスなど「透湿防水素材」の、上下セパレートタイプが必須です。
- ザック(リュック): 30L前後。腰ベルトが付いている登山専用のものが負担を軽減します。
その他、あると劇的に楽になるもの
- ヘッドライト: ご来光登山には必須。手持ちの懐中電灯は危険です。
- トレッキングポール(ストック): 足の負担を腕に分散。初心者の「魔法の杖」です。
- 防寒着: フリースや薄手のダウン。夏でも山頂は真冬並みです。
- 小銭(100円玉): トイレはチップ制(200円〜300円)です。100円玉を20〜30枚用意しましょう。
【前日】体調管理
- 睡眠: とにかく寝てください。睡眠不足は高山病の最大要因です。
- 禁酒: 前日のアルコールは脱水を招き、高山病リスクを高めます。
- 爪切り: 足の爪を短く切っておきましょう。長いと下山時に靴に当たって内出血し、激痛で歩けなくなります。
第5章:いざ本番!登山当日のシミュレーション

ここでは、一般的な「1泊2日・ご来光プラン」の流れをシミュレーションします。
【1日目 10:00】富士スバルライン五合目到着
バスを降りたら、すぐには登り始めないでください。
「高度順応」のため、五合目(標高2,300m)で1〜2時間過ごします。食事をしたり、お土産を見たりして体を気圧に慣らします。これが高山病対策の要です。
【1日目 12:00】登山開始
最初は平坦な道ですが、徐々に傾斜がきつくなります。
「会話ができるペース」でゆっくり歩きましょう。
「息が切れる=ペースが速すぎる」サインです。
20分歩いて5分休憩、ではなく「1時間ゆっくり歩き続けて5分休憩」のリズムが理想です。
【1日目 16:00】七合目〜八合目の岩場
六合目を過ぎると、ジグザグの砂利道からゴツゴツした岩場に変わります。
手を使って登る箇所もあります。軍手やトレッキンググローブを着用しましょう。
【1日目 17:00】山小屋到着・夕食・仮眠
予約した山小屋にチェックイン。夕食はカレーライスが定番です。
山小屋の寝床は狭く、雑魚寝に近い状態です(最近は個室風の小屋も増えています)。
耳栓とアイマスクがあると安眠できます。ここで数時間の仮眠をとります。
【2日目 02:00】起床・山頂アタック
真夜中に出発。外は真っ暗で寒いです。
ヘッドライトを点灯し、列になって登ります。
ここから山頂までは大渋滞が起きやすいので、時間に余裕を持ちましょう。
酸素が薄いため、深呼吸を意識します。
【2日目 04:30】山頂到着・ご来光
ついに山頂! 東の空が白み始めます。
そして迎える「ご来光」。
雲海から昇る太陽の輝きは、疲れを一瞬で吹き飛ばすほどの感動です。
体力に余裕があれば、火口の周りを一周する「お鉢巡り(約90分)」にも挑戦してみましょう。
日本最高地点(剣ヶ峰 3,776m)はそこにあります。
【2日目 08:00】下山開始
実は、富士山で一番辛いのは「下山」です。
吉田ルートの下山道は、延々と続く砂利道のジグザグ道。
景色が変わらず、精神的にも足腰にも来ます。
靴紐をきつく締め直し、ストックを使って膝への衝撃を和らげながら下りましょう。
【2日目 12:00】五合目到着・ゴール!
お疲れ様でした! 五合目のレストハウスで食べるソフトクリームの味は格別です。
第6章:予算シミュレーション(2026年版)

「結局、いくらかかるの?」という疑問にお答えします。
(東京発着・1泊2日・装備レンタル利用の目安)
| 項目 | 金額目安 | 備考 |
| 交通費 | 7,000円〜10,000円 | 新宿〜五合目 高速バス往復 |
| 山小屋宿泊費 | 12,000円〜16,000円 | 1泊2食付(土日は高い傾向) |
| 通行料・協力金 | 3,000円 | 入山料2,000円+協力金1,000円 |
| 装備レンタル | 15,000円〜20,000円 | フルセット(靴・雨具・ザック等) |
| 現地雑費 | 4,000円〜5,000円 | トイレ(1回200-300円)、水(1本500円)、食事 |
| 合計 | 約41,000円〜54,000円 |
決して安くはありませんが、安全を買うための必要経費です。
特に装備と山小屋代をケチると、命に関わるリスクに直結します。
第7章:よくある質問(FAQ)

Q. 一人でも登れますか?
A. はい、吉田ルートは人が多いので一人でも不安は少ないです。ただし、体調不良時に助け合える仲間がいる方が心強いのは間違いありません。
Q. 携帯電話は繋がりますか?
A. ドコモ、au、ソフトバンクの大手キャリアは、登山道のほぼ全域と山頂で4G/5Gが繋がります(夏山期間中、アンテナが設置されます)。SNSへの投稿も可能です。
Q. ゴミはどうすればいいですか?
A. すべて持ち帰りです。 山小屋にもゴミ箱はありません。ゴミ袋を持参しましょう。
Q. 高山病になったらどうすればいいですか?
A. 症状が軽い(頭痛程度)なら、その場で深呼吸をして休憩し、酸素缶を使ってみましょう。それでも改善しない、吐き気がひどい場合は、勇気を持って「下山」してください。 標高を下げれば嘘のように治ります。無理して登り続けるのが一番危険です。
まとめ:準備さえすれば、富士山は微笑んでくれる

富士登山は、決して「楽な観光」ではありません。しかし、2026年の新しいルールを理解し、適切な装備とトレーニングをして臨めば、初心者の方でも十分に登頂可能です。
入山規制や予約システムは面倒に感じるかもしれませんが、これらはすべて「混雑を緩和し、あなたの安全を守るため」の仕組みです。かつてのような、すし詰めの登山道で動けなくなるストレスは減り、より快適に自然と向き合える環境が整いつつあります。
日本一の場所から見る景色、達成感、そして自分自身の限界を超える体験。
それは一生の宝物になるはずです。
しっかりと準備をして、2026年の夏、富士山の頂でお会いしましょう!
