はじめに:なぜ、今「山」なのか?
「平日は会社と家の往復で、気づけば金曜の夜。」
「休日は昼過ぎまで寝て、Netflixを見ていたら終わっていた。」
「学生時代の友人と会っても、仕事の愚痴か過去の話ばかり……」
もしあなたが今、こんな日々に少しでもモヤモヤを感じているなら、この記事はあなたのためのものです。
こんにちは。登山歴8年、元登山ショップ店員の「ポレ鳥」と申します。
高校・大学と山岳部で基礎を叩き込み、ショップ店員として膨大な道具の知識を身につけ、今では働きながらキリマンジャロ登頂やネパールトレッキングに挑戦する、根っからの「山好き」です。
そんな私が、胸を張って同世代(20代〜30代前半)の皆さんにおすすめしたい最高の趣味。
それが「登山」です。
「登山? お年寄りの趣味でしょ?」
「体力に自信がないし、道具を揃えるのにお金がかかりそう……」
そう思う気持ち、痛いほどわかります。
私もショップ店員時代、同じような不安を抱えるお客様を何人も見てきました。
しかし、今、私たちの世代の間で、登山が静かに、しかし熱狂的に支持されているのをご存知でしょうか。
それは単なる運動ではありません。
電波の届かない場所でデジタルデトックスをし、自分の足だけで頂上に立つ達成感を味わい、下山後に最高の温泉とビールを流し込む。
これは、現代社会で戦う私たちが、人間らしさを取り戻すための「儀式」なのです。
この記事では、数々の失敗も経験し、プロとして道具選びの現場にも立ってきた私が、「20代初心者が登山を最高に楽しむための全ノウハウ」を5000文字近いボリュームで徹底解説します。
プロ目線の道具の選び方から、絶対に失敗しない山の選び方、そして下山後の楽しみまで。
読み終わる頃には、きっとあなたも「次の週末、ちょっと山に行ってみようかな」とワクワクしているはずです。
第1章:20代の脳と体に「登山」が効く3つの理由
ただ楽しいだけではありません。なぜ、忙しい若手ビジネスパーソンほど山にハマるのか。そこには科学的とも言える理由があります。
1. 強制的な「デジタルデトックス」ができる
私たちは毎日、LINE、Slack、Teams、SNSの通知に追われています。
「即レス」が求められるプレッシャーは、無意識のうちに脳を疲弊させています。
しかし、山に入ると、場所によっては電波が入りません。
あるいは、歩くことに必死でスマホを見る余裕がなくなります。
「スマホを見なくていい正当な理由」が手に入る。
この開放感は、現代において何にも代えがたい贅沢です。
脳のキャッシュをクリアする感覚を味わってください。
2. 「わかりやすい達成感」が得られる
仕事では、頑張ってもすぐに結果が出なかったり、上司やクライアントの評価に振り回されたりしがちです。 でも、登山は違います。
「あそこの頂上まで行く」と決めて足を動かせば、必ずゴールに辿り着けます。
誰の評価も関係ありません。
「自分の足で、ここまで登りきった」という純粋な事実は、仕事で擦り減った自己肯定感を驚くほど回復させてくれます。
3. 最高の「メシ」と「風呂」が待っている
これを言うと笑われるかもしれませんが、登山の目的の半分は「下山後のご褒美」です。
山頂で食べるカップラーメンは、高級フレンチに匹敵するほど美味しい。
下山後の温泉で手足を伸ばした瞬間の快感は、言葉になりません。
そして、その後に飲むビールの旨さ……! 運動による適度な疲労感と、空腹、そしてリラックス。
これらがセットになった時、幸福度は最大化されます。
第2章:形から入りたい!失敗しない「装備」の揃え方
「登山はお金がかかる」というのは半分正解で、半分間違いです。
最初から全てを最高級品で揃える必要はありません。 ここでは、「どこにお金をかけ、どこを節約すべきか」のメリハリ戦略を伝授します。
【投資すべき】1. 登山靴(トレッキングシューズ)
ここだけは、絶対にお金をケチってはいけません。 普段のスニーカーでは、木の根や濡れた岩で滑りやすく、非常に危険です。また、靴底が柔らかすぎると足裏が疲れ、翌日の仕事に響きます。
- 予算目安: 15,000円〜20,000円
- 選び方: ネット通販はNG。必ずアウトドアショップに行き、厚手の靴下を借りて試着してください。「モンベル」「キャラバン」「コロンビア」などの入門モデルがおすすめです。
【投資すべき】2. レインウェア(雨具)
「晴れの日しか行かないから」と思いがちですが、山の天気は変わりやすいものです。
そして、山で濡れることは「低体温症」という命の危険に直結します。
コンビニのビニールガッパはすぐに破れるのでNG。
- 予算目安: 5,000円〜(ワークマン)、15,000円〜(アウトドアブランド)
- 選び方: 最初は「ワークマン」の透湿防水スーツ(イージスシリーズなど)で十分戦えます。ハマったら「ゴアテックス」素材のものを買いましょう。
【節約OK】3. ザック(リュックサック)
日帰り登山なら、容量は20〜30リットルあれば十分です。
最初は、家にあるナイロン製のリュックでも代用可能です。
ただし、肩紐が細いとお洒落リュックだと肩が痛くなるので、できればスポーツブランドのものがベター。
本格的に始めるなら、腰ベルト(ウエストハーネス)がしっかりした登山用ザックを買いましょう。
肩ではなく腰で荷物を支えるため、驚くほど軽く感じます。
【節約OK】4. ウェア(服装)
専用の登山ウェアでなくても、「乾きやすい化学繊維(ポリエステル)」のスポーツウェアならOKです。
ユニクロのドライEXやエアリズム(メッシュタイプ)などが活躍します。
※絶対NGな素材:綿(コットン) 綿は汗を吸うと乾かず、体を急激に冷やします。
Tシャツ、下着、靴下を含め、綿100%のものは絶対に避けてください。
第3章:初心者でも安心!「山の選び方」3つの鉄則
意気揚々と出かけたものの、道に迷ったり、体力が尽きたりしてはトラウマになってしまいます。
最初の3回は、以下の条件を満たす山を選んでください。
鉄則1:往復コースタイムが「4時間以内」
登山地図には「コースタイム(標準歩行時間)」が書かれています。
登り2時間、下り1.5時間、休憩含めてトータル4〜5時間程度で終わる山がベストです。
これなら朝8〜9時に登り始めても、お昼過ぎには下山でき、温泉を楽しむ時間が確保できます。
鉄則2:人が多い「メジャーな山」を選ぶ
「誰もいない静かな山」はロマンがありますが、初心者のうちは遭難リスクが高まります。
登山者が多い山なら、道に迷いそうになっても誰かに聞けますし、何より踏み跡がしっかりしていて歩きやすいです。
YAMAPなどのアプリで「活動日記」が多い山を選びましょう。
鉄則3:エスケープルート(逃げ道)がある
「疲れたらケーブルカーやロープウェイで降りられる」。
この安心感は絶大です。 高尾山(東京)や六甲山(兵庫)が初心者におすすめされる最大の理由はこれです。無理をして膝を痛める前に、文明の利器を頼りましょう。
第4章:これだけは入れて!必須アプリ「YAMAP」
現代の登山において、紙の地図と同じくらい、いやそれ以上に必須なのがスマートフォンアプリです。 中でも日本国内で圧倒的なシェアを誇るのが「YAMAP(ヤマップ)」です。
なぜ必須なのか?
- 電波がなくても現在地がわかる 事前に地図をダウンロードしておけば、機内モードや圏外でも、GPSで自分の位置がわかります。「今、自分がどこにいるかわからない」という恐怖から解放されます。
- 他の登山者の記録が見られる 「昨日の登山道の状況」や「紅葉の色づき具合」など、最新の情報が写真付きでチェックできます。
- 見守り機能 家族や友人に位置情報を共有する機能もあり、万が一の際にも安心です。
登山靴を買う前に、まずはこのアプリをインストールして、近くの山を検索してみてください。
第5章:いざ実践!初めての登山シミュレーション
では、実際に週末に登山に行く流れをシミュレーションしてみましょう。
【前日:準備と早寝】
- パッキング: ザックには、レインウェア、飲み物(夏なら1.5L〜2L、冬でも1L)、行動食(おにぎり、チョコレート、ナッツ)、モバイルバッテリー、タオル、着替え、ゴミ袋を入れます。
- 計画書の提出: YAMAPのアプリ上で登山計画を作成し、提出ボタンを押します(これで家族への共有にもなります)。
- 睡眠: 遠足前の小学生のようにワクワクするかもしれませんが、睡眠不足は高山病やバテる原因になります。しっかり寝ましょう。
【当日朝:移動と朝食】
- 早起き: 登山の朝は早いです。登山口には遅くとも9時〜10時には着くようにしましょう。
- 朝食: しっかり炭水化物を摂ります。エネルギー切れ(シャリバテ)を防ぐためです。
【登山中:自分のペースで】
- 歩き始め: 最初から飛ばすと後半バテます。「会話ができるくらいのペース」を維持しましょう。
- こまめな休憩: 「疲れた」と感じる前に、30分〜1時間に1回は立ち止まり、水分と少しの糖分を補給します。
- 挨拶: すれ違う人に「こんにちは」と挨拶しましょう。これはマナーであり、お互いの存在を確認する安全確認の意味もあります。
【山頂:至福の時間】
- ついに登頂! ザックを下ろし、絶景を眺めましょう。
- お湯を持参していれば、カップ麺を作ります。コンビニのおにぎりも最高です。
- 写真を撮りまくりましょう。SNS用の「映え写真」も、ここでは恥ずかしがる必要はありません。
【下山:家に帰るまでが登山】
- 下りは慎重に: 実は登りよりも下りの方が、膝への負担が大きく、転倒事故も多いです。靴紐を締め直し、慎重に歩きましょう。
- 温泉へGO: 下山したら、近くの日帰り温泉へ。汗を流し、サウナで整い、休憩所でコーヒー牛乳を飲む。この瞬間のために登ったと言っても過言ではありません。
第6章:20代におすすめのエリア別「デビューの山」
最後に、関東・関西それぞれの「最初に登るならここ!」という山を紹介します。
【関東エリア】
- 高尾山(東京)
- レベル: ★☆☆☆☆
- 魅力: 世界一登山客が多い山。スニーカーでも行けるコースから、本格的な自然を楽しめるコースまで多彩。下山後の「京王高尾山温泉」が最高。
- 金時山(神奈川・箱根)
- レベル: ★★☆☆☆
- 魅力: 「まさかり担いだ金太郎」の山。山頂からの富士山の眺めは圧巻。片道90分程度で登れ、満足度が高い。
- 御岳山(東京)
- レベル: ★☆☆☆☆
- 魅力: ケーブルカーで一気に標高を稼げる。山頂には神社や集落があり、観光気分も味わえる。その先の「ロックガーデン」は苔むした美しい散策路。
【関西エリア】
- 六甲山(兵庫)
- レベル: ★★☆☆☆
- 魅力: 関西ハイカーの聖地。ルートが無数にあり、自分のレベルに合わせて選べる。下山後は有馬温泉に抜けられるルートが最強。
- 金剛山(大阪・奈良)
- レベル: ★★☆☆☆
- 魅力: 登山回数を記録するシステムがあり、毎日登る人もいるほど愛されている山。山頂広場が広く、休憩しやすい。
おわりに:山は、あなたの「サードプレイス」になる
職場(ファーストプレイス)でもない、家(セカンドプレイス)でもない、第3の居場所。
それがあなたにとっての「山」になるかもしれません。
山では、社内の肩書きも、年収も、フォロワー数も関係ありません。
ただの「山を登る人」として、自然と向き合う時間は、驚くほどフラットで自由です。
初期費用が高いと感じるなら、まずはレンタルでも構いません。
体力がないなら、ロープウェイを使えばいいんです。
誰かと行く予定が合わないなら、ソロで行ってみるのも素敵な冒険です。
今度の週末、いつもの居酒屋やショッピングモールではなく、少し早起きして、近くの山に行ってみませんか?
澄み渡る空気と、見たことのない景色が、あなたを待っています。
さあ、スマホを置いて、靴紐を結ぼう。
あなたの新しいライフスタイルは、標高数百メートルの場所から始まります。

